徳山高専の北村と申します。私の本来の専門は磁気圏物理学なのですが、縁あって高専に赴任して(しかも機械電気工学科)、技術者教育というフィールドで毎日頭を悩ましながら試行錯誤を繰り返しております。ここでは、UZUME計画のアウトリーチ活動に関して技術者教育という側面から考えてみたいと思います。宇宙科学に関するアウトリーチというと、多くは小中高校生から一般の人を対象にした取り組みが多いように感じます。こうした取り組みは、宇宙科学の先端研究を分かりやすく解説し広く興味を持ってもらい、できれば低学年のうちから宇宙や科学に関する興味を涵養し将来こうした分野に優秀な人材が多く関わってくれることを目的としているわけです。実際に、大学院生くらいになると研究の一貫として進行中の宇宙ミッションに関わった研究テーマに取り組んでいる人も少なくありません。一方で、工学の基礎を学び始めたばかりの高専生や大学学部生くらいの人たちにとっても、UZUME計画のような宇宙科学ミッションは、技術を勉強するためのテーマの宝庫であり、技術者教育への親和性が極めて高いというのが私の意見です。
そもそも、私が春山さんと知り合うきっかけになったのは、2012年の衛星設計コンテストで、指導学生が月の縦穴探査のミッションを提案したことです。このときは、月面に着陸したランダーからローバーを発進させ、縦穴内を懸垂降下しながらレーザースキャンを行い、さらに壁面の熱伝導率を計測するという計画を提案しました。これらの提案をするために学生たちは、ミッションの意義や重要性を理解した上で、特定の解のない問題に、複数の要素技術(計測、通信、構体、データ処理、電源など)を組み合わせて、反復した取り組みを通じて、一つのシステムを構築する必要があります。しかもそれを、グループワークとしてプロジェクトマネージメントを行いながら進めることが求められます。このような教育は、エンジニアリング・デザイン教育と呼ばれ、より実践的な技術者教育として高等教育の現場で重視されてきています。
さて、数ある宇宙ミッションの中で、私がUZUME 計画が最も技術者教育に適していると考える理由は、そのミッションの分かり易さにあります。月に縦穴が発見されました。その中を調査したいのです。あなたならどうしますか?という問いかけは非常にシンプルで、子どもから専門家まで、様々の立場で答えを提案することができるテーマです(ちなみに私の小学生の息子の提案は、「ヘリコプターで着陸する」でしたが・・・)。とりわけ、工学の基礎を勉強したての学生にとっては、想像力を掻き立てられる問いかけに違いありません。そして、ちょっとまじめに考えだすとその困難さに圧倒されるテーマでもあります。ヘリコプターで着陸することはできませんが、学生たちはそれぞれのスキルに応じて、試行錯誤を尽くした提案をしていくことができると思います。このような、UZUME計画の生きた題材としての魅力を技術者教育の現場で学生たちに伝えていけるよう、微力ながらお手伝いができればと考えております。
(北村 健太郎)