CMとはキャスティングマニピュレーションの略。私は95年頃からこのCM(投擲型遠隔装置を用いた被投擲物の操り)の研究を進めてきました。本装置を用いて岩山の上や谷底などのアクセスが困難な場所や遠方に計測機器等を配置したり、それらの場所からサンプルを回収したりする作業の実現が目標です。この装置はさながら釣り道具のようで、竿に相当するアーム、アームの先で繰出/巻取される柔軟ワイヤ、ワイヤの先に装着された針に相当するハンド(ペネトレータやフック、運搬用保護カプセルなどに付け替え可能)で構成されたロボットです。釣り人よろしくアームをスイングし、適切なタイミングでハンドを放出。その後、ハンドの飛行中にワイヤの張力を変えて軌道制御することでハンドの最適な姿勢・速度を生成して、目標物体を精度良くキャッチさせることができます。これまで、ハンドの代わりに剣玉の玉(穴径12mm)を装着して投擲し2m先に直立した剣に突き刺す動作なども実現しました。ただ、このときの私の目はまだ天には向いておりませんでした。
その後、ヒューマノイド研究に転向し5年以上CMの研究は封印されたのですが、転機が訪れたのは2010年4月、何気なく開いた学会誌に掲載されていた公募と出会ったとき。それはJAXA主催の「月面ロボットチャレンジ」との遭遇でした!この公募は月面ミッションをロボットで実現するアイデアを設計コンテストという形で提案してもらおうというもの。公募を読み進める程に心の高鳴りを覚え、興奮して思ったのが「CMが求められているに違いない」。1日で構想を練り、3日で提案書を書き上げ提出。提出締切4日前のことでした。5年分のCMへの思いが認められたのか、幸運にも採択され、同年にJAXAのN田さん(現在、T大教授)、Oさんとの共同研究がスタート。そして、Oさんを通じて出会った春山さんの熱いお話しに感銘し、斯くしてCMの応用先は縦孔探査に絞られ、その挑戦が始まることになりました。
現在は、ハンドの代わりに保護カプセルを投擲し、着地時の衝撃を緩和する方法を検討しています。最近の成果では、カプセルとワイヤで繋がる補助錘を、カプセルと一緒に投擲し、軌道変更させた着地前のカプセルを、アーム側のワイヤと錘側のワイヤの両方から引っ張る状態にして減速し、軟着地させることを実現しました。これはヒューマノイド研究時代に密かに書いた特許技術がベースになっています。
将来の月面縦孔探査では、LEDとカメラを搭載したカプセル(探査機内蔵)を縦孔に投げ込み、空撮することを想定しています。カプセルが縦孔上空で軌道を変え、いよいよ縦孔の閉ざされた闇の世界へ降りてゆく・・・LEDの光に照らされる縦孔の素顔はどんなものなのでしょうか?その光をUZUME的な表現で(無理矢理?)例えるなら、「天岩戸から引き出された太陽神、天照大神により長い闇夜が一変する希望の光」でしょうか。照らされた縦孔に天照大神のような美男子がいることはないでしょうが、神々しい何かがあるはず。縦孔探査の競争はすでに始まっているようですが、ぜひともUZUMEでの成功を願っています。
最後に希望を一つ。種々の技術開発を行うための地上実験用の縦孔(スケールモデルでもOK)が必要なこと。探査する術を確立し、アピールするためのこのアイテムに、まず希望の光を?!
(有隅 仁)