賢者の海の縦孔

~月の裏側の縦孔~

縦孔の概要
賢者の海の縦孔は、月の裏側に発見されました。英語で表記すると、「Mare Ingenii Hole (MIH)」となります。
孔の位置は、南緯35.6度、東経166.0度、月の平均半径1737.4kmからの高さは、マイナス3.62kmです。
孔の形は非常にいびつで、長径118m、短径68mです。深さは、孔の縁から48mです。

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賢者の海の縦孔周辺ってどんなところ?
賢者の海は、月の裏側にある、太陽系最大級の隕石衝突痕と言われる「サウスポール-エイトケン盆地」の北西にあります。このサウスポール-エイトケン盆地がいつ出来たのか、ということは、月-地球系に、かつて多くの隕石衝突が、いつ、どれくらい起きたのか、ということを明らかにする上で、重要だと言われます。
賢者の海の縦孔の西には、巨大な渦巻き模様がみえます。こうした渦巻き模様は、月の表面のいくつかのところに発見されていますが、局所的な磁気異常と関係することがわかっています。この磁気異常により、他の場所に比べて、太陽風(太陽から出される水素イオンの流れ)のあたり方がすくなくなります。その結果、表面の鉱物や微細な構造の変化の度合いが異なって、他の月表面より反射率が高い状態になっていります。こうしたことが原因で、渦巻き状の月面部分でも、太陽風のあたり方が他部分とは異なっていて、渦巻き模様が生まれるのだろうと、考えられています。磁気異常があることから、賢者の海の縦孔では、太陽風(水素イオン)などの被爆量が少なくなると考えらます。
賢者の海の孔の周りにもまた、溶岩の流れた痕(リル)は見当たりません。縦孔も他にはありません。

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LROによる縦孔高解像画像
賢者の海の縦孔も、LROによる高解像度画像が得られています。

1)地下に巨大な地下空洞がある
賢者の海の縦孔もまた、マリウス丘の縦孔(MHH)と同様、画像から、縦孔の壁と底の間には、縦孔の直径を超える巨大な空間、地下空洞が存在しているといえます。

2)異なる底での岩の分布
更に、この孔の底もまた、おおよそ平らだとわかりますが、孔の底には、数mに及ぶ大きな岩が点在しています。右図は、上が西側から太陽が当たっているときの画像、下が、東側から当たっているときの画像です。底の東部分は砂が多く、西側は岩が多いように見えます。砂が多い、岩が少ない、ということは、孔が出来てから時間がたち、周りの壁が微小な隕石の衝突ではがされた塵が底の部分を覆ったり、あるいは、底の岩そのものが隕石で砕かれていったことを意味します。つまり、賢者の海の縦孔は、最初、東側か開き、次第に西側が開いていったと考えられます。地下には、やはり空洞が拡がっているようです。

3)周りに大きな岩やクレータが無い
賢者の海の縦孔周りにもまた、少なくとも半径100mの周りには、メートルサイズの大きな岩は、まったく見ありません。月の裏は、地球からの電波の影響が少なく、電波天文観測にも有効と言われており、その意味でも賢者の海の縦孔は、裏の探査・基地建設にとっても、重要な意味持ちます。

 

西側から太陽が当たっている時の画像。孔底(孔の東側)は、砂が多く積もっている。
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東側から太陽が当たっている時の画像。孔底(孔の西側)は、数mの岩が多く見える。
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