第14回 月の縦孔での宇宙プラズマ電磁気学(西野真木)


 電磁気・プラズマ環境担当の西野真木と申します。春山さんとは特に月周回衛星「かぐや」の頃からご縁があり、UZUMEにもお誘い頂きました。

 宇宙空間は真空だ、という言葉を耳にすることがあります。実は「真空」の定義にもよるのですが、宇宙プラズマの研究者にとって宇宙は決して真空とは言えません。太陽からは太陽風と呼ばれる高速のプラズマ(主に陽子と電子)が絶えず吹き出しており、太陽系全体を満たすように広がっていきます。したがって、月が地球磁気圏の外にいる間は、月の昼側に太陽風プラズマが吹き付けています。また、地球磁気圏のプラズマも月面に衝突していることが「かぐや」等の観測によってわかっています。これらの宇宙プラズマは月の縦孔の環境にも影響を与えるものと予想しています。

 縦孔の電磁気環境でもう一つ大事なのは磁場の探査です。月には多くの磁気異常が存在していますが、縦孔の内部で磁場を調査することができれば、磁場の形成当時の情報が得られる可能性があります。

 さらに、月周辺の宇宙空間にはダストと呼ばれる微粒子が浮遊していることが知られています。ダストはしばしば帯電することが知られており、縦孔の周辺や内部では電場によって加速されるかもしれません。そのため、ダストが人工物(特に電子機器や宇宙服など)に与える影響を事前に評価する必要がありそうです。

 月の電磁気に関する過去の様子を知り、いま起きている物理現象を理解するとともに、探査の安全面での評価でもお役に立てれば良いと思っています。