第18回 月の縦孔から海の形成史を探る (白尾元理)

今回は縦孔の探査が、どのようにして月の海ができたかという大きな謎を解く鍵になることを話します。

地球から見てウサギのように黒く見えるのが月の「海」と呼ばれる領域です。アポロ計画で持ち帰られた岩石から、月の「海」は溶岩でできているがわかっています。しかし月の海には、富士山やハワイの楯状火山のような盛り上がった火山はほとんどありません。月の海は、粘り気の少ない溶岩が長距離を流れる“洪水玄武岩噴火”でできたらしいのですが、長距離といっても数㎞なのか、それとも数百㎞なのかもわかっていません。噴火間隔も、地球の火山のように数十~数百年なのか、それよりもずっと長い数千万〜数億年なのかもわかっていません。

なぜ、こんなことがわからないのかというと月には急な崖がないからです。急峻に見えるクレーターの縁でさえ斜度は40°しかありません。ところが「かぐや」で発見された月の縦孔の壁は垂直で、たとえば静かの海の縦孔などは深さ50m以上もあるのです。米国の月探査機LROによる斜め観測で得られた画像からは、この垂直な壁には数mごとの成層構造があるのが見てとれます。この壁を数㎜~数cm単位で調べることができれば、月の海の形成を解く大きな手がかりとなります。
さらにその下には床面から天井まで50m以上の巨大な地下空間が広がっています。もし溶岩トンネルだとすると数十km以上も続く可能性があります。

米国のアポロ、旧ソ連のルナ、中国の嫦娥(じょうが)などのたび重なる着陸によって、月表面での新たな大発見は難しくなってきました。地下世界につながる縦孔は、月に残された最後のフロンティアと言えます。

縦孔探査には、数十m精度の着陸技術、垂直壁を下降しながら精密観測をするロボット技術、大小の礫に覆われた縦孔底を自由に動き回る移動手段の開発など、乗り越えなければならないいくつもの壁があります。しかし現在では、縦孔探査に関わる研究者も増え、数年前は夢のように思われたUZUME計画は、実現に向かって大きく歩み出しました。皆さんも私たちと一緒にUZUME計画でドキドキ、ワクワクしませんか。