第16回 月縦孔の被ばく医療施設がもたらす安心感(道川祐市)

 国立研究開発法人の放射線医学総合研究所で、緊急被ばく医療研究に携わっています。実験マウスを用いて、高線量放射線障害の再生医療技術を開発しています。春山さんとは留学先のカリフォルニア工科大学でお会いして以来、20年のお付き合いとなります。

 地上約400キロメートルを周回飛行する国際宇宙ステーションでは、地球の磁気圏が宇宙放射線を弱めてくれます。しかしながら月の表面では遮るものが無くなりますので、放射線対策はとても重要です。特に太陽フレアなどの高線量放射線リスクがどれだけのものなのか、将来的な有人活動に向けて的確に把握する必要があります。

 春山さんらが発見された縦孔内の空間は、分厚い岩盤により宇宙放射線が効率よく遮蔽されている可能性があります。ここを将来的な有人基地の候補とすることは、とても妥当な考え方です。ぜひ、その一角に最先端の被ばく医療施設を構築し、月表面で活動される方々への迅速な支援の場とさせていただきたく思います。

 月はすぐ地球へ還れる距離にはないので、現地での対応が重要です。安全な空間における充実した医療施設が安心感を生み、円滑な月面活動を支えることと思います。私の専門は放射線に限定されますが、少しでも不安を取り除けるよう、実効性ある研究開発を心がけていこうと考えています。地球上での被ばく医療への相互補完的なフィードバックも期待しています。